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1.ジャスミンの夜(4:48)

2.マンゴー(5:51)

3.柿食えば(4:30)

4.さくらの谷(8:20)

5.もうダメ(4:35)

6.まるで歌のように(3:56)

7.アボカド(4:39)

8.サンタクルス (4:59)

9. まるで歌のように(ピアノバージョン) (2:31)

10.デスカルガ(3:49)

曲の解説

1. ジャスミンの夜
作曲/川上ミネ
ピアノ/川上ミネ
打楽器/Luis Fernando Franco, Mauricion D’Leon
ギター/Edugardo Mieri
コントラバス/Eduardo Gonzalez

ある夏の夜、スペインアンダルシア地方のバエサという小さな街を歩いていたとき、灼熱の太陽が全てを焼くような昼間からは想像も付かないほど優しい風が吹いていた。風は時折、強く吹いてオリーブの葉を揺らしたり、それが石でできた大聖堂の壁に淡い影を作って揺らしたり、またその夜空一面に広がる星々を一層瞬かせたりする。太陽に温められた石畳から湧き上がる熱が時々足元をかすめる時、どこかで咲いているジャスミンの香りを風が運んできた。風が吹くたびに、その香りが濃くなったり、薄くなったり。その夜、この風が持ってくるジャスミンがどこで咲いているのかを探してずいぶん街を歩き回った。でもジャスミンを見つけることはできなかった。
匂いは、私にとって音とよく似ていると思うことがある。何年も忘れていた香りをかいだ時、その長い時間を越えて記憶が蘇ることがある。ジャスミンの匂いを感じたとき、長いこと心の奥で眠っていたある記憶が色鮮やかに浮かび上がったのを感じた。その記憶が風と結びついて私をあんなに遅くまで街を歩かせたのだろうか。

2. Mangoマンゴー
原曲/EL RATON
編曲/川上ミネ, Luis Fernando Franco
ピアノ/川上ミネ
コントラバス/Eduardo Gonzalez
トランペット/Dante Vargas
トロンボーン/Moris Jimenez
サックス/Jonny Pasos

初めてキューバを訪れたとき、この種類の音楽を弾いているキューバ人を見て彼らは狂っていると思った。一つのテーマがサンドイッチのパンの役目を果たし、さて後は何をその間にはさむか。はさまれる具が一人一人のソロである。燻製された上等なハム、パリパリ新鮮摘みたてキュウリ、熟れた真赤なトマト、熟成された癖のあるチーズ・・・。しかしサンドイッチは、具だけでは決まらない。パンが香ばしくてしっかりしていなければ美味しくないのだ。パンは、演奏しているうちにどんどん香りを増して、どんどん厚くなっていく。キューバではこの手の音楽が人と人をつなぐパーティのような役割を果たす。始まったら終わらない。いつだったか、夜11時頃に弾き始めて、朝1時半まで曲が終わらなかったことがあった。
ラテン人はこのサンドイッチをたらふく食べて仲良しになる。もちろん喉が渇く分だけラム酒(当然原酒)をゴクゴク言って飲むのだが。

3. 柿食えば
作曲/川上ミネ
ピアノ/川上ミネ
メシアン(Olivier Messiaen 1908-1992)と言う作曲家が書いた曲はいつ聴いても、どれだけ練習しても新しくて、美しい。学生の時、彼の曲を全て弾きたくて、無茶な練習をして3ヶ月も右手の親指が動かなくなってしまったことがあった。でもやっぱりメシアンはいい。彼の書いたピアノの楽譜は、まるで春の沼に異常発生したオタマジャクシがウヨウヨうごめいて沼全体が真っ黒になっているみたいな状態に似ていて、楽譜を開くとゾッとするほど黒い。でも、その楽譜から浮かび上がる音は、その光景とは似ても似つかないほど、美しくシンプルで、私には彼の音が光の色となって見える。きっと、メシアンにとって、他の方法で彼の音を表記する術がなかっただけなのかもしれない。
私にとっても音は、色彩である。私の手は小さくて、自分が書いた曲もメシアン先生が聴いたら気絶するようなモノだとは思うけど、一つ一つの音や、音の集合体がそれぞれの色となって彩り輝いている。

4. さくらの谷
作曲/川上ミネ
ピアノ/川上ミネ
ガイタ笛(コロンビアアンデスの民族楽器)/Luis Fernando Franco
打楽器(アマゾンの民族楽器): Diego Gale, Luis Fernando Franco
コントラバス/Eduardo Gonzalez

スペインのエクストレマドゥーラ地方にJerte(ヘルテ)と言う20キロ以上ポルトガルに向かって伸びている深い谷がある。谷の底には川幅が狭いが水深の深い川がながれ、その両斜面にはさくらんぼの木だけが茂っている。6月だった。川沿いに道を走っても走っても、あるのはさくらの木と、それにぶら下がるサクランボの実だけだった。宇宙の色そのものの紺碧の空の下で、星の数ほどあるサクランボの実が一つ一つ、太陽の姿を映して深紅に輝いていた。まるで、覆い茂る深い緑色の森という宇宙の中で星々が瞬くように。

5. もうダメ
作曲/Luis Fernando Franco
ピアノ/川上ミネ
コーラのペットボトル500ml,1L,2Lサイズ/全員
パーカッション/Diego Gale, Mauricion D`Leon
コントラバス/Eduardo Gonzalez
トランペット/Dante Vargas
サックス/Jonny Pasos
トロンボーン/Moris Jimenez

クンビアというコロンビアのリズムがベースになっている。あるライブで、楽器の運搬に不備があって届くはずのアンデスの笛が届かなかった。本番直前だったので、楽屋にあったペットボトルに水をいれて音を調達するという応急処置をする事になった。偶然にも、必要な音の数が丁度演奏メンバーの数と一致したので、全員一人一本ずつで試してみたら案外評判が良かったので、これからはペットボトルで演奏しようという事になった。しかし、その次のライブで、ペットボトルを準備しておいたら、今度はゴミと間違えられて捨てられてしまった。
ラテンの国で何かをやろうとすると、「もうダメ」と思わずつぶやいてしまう事のオンパレードである。しかし、このつぶやきが出たところから本当の面白さが始まるような気がする。

6. まるで歌のように
原曲/Victor Fonseca
編曲/川上ミネ
ピアノ/川上ミネ
パーカッション/Roberto Cuao
ギター/Edugardo Mieri
ベース/Nestor Gomez

キューバに住んだ理由の一つは、「トゥンバオ」というピアノの奏法を身につけたいからだった。まるで打楽器のようにピアノを叩くテクニック、自由自在に移り変わる調性、どんなに頑張ってもどうやってキューバ人があんなに軽々と弾くのかが分からなかった。様々な音楽家のもとを訪ねて、教えを乞いにいったが、とうとう誰もその弾き方を教えてくれなかった。何故なら、彼ら自身どうしてこんな簡単な事が弾けないのかが理解できないからだ。それでも、私に根気欲教えてくれようとした音楽家がいた。ヴィクトルと言った。ギタリストで作曲家、パーカッションも叩けるがピアノもコントラバスもベースもバイオリンも弾けておまけに歌えて踊れるという、キューバにはそこら中に転がっている音楽家タイプだったが、彼の違うところは時間にルーズじゃないところだった。ある日、音あわせをしに一緒に自転車で走っている途中、滝のようなスコールがやって来た。進むことも戻ることもできないその爆雨に、大木の下で雨宿りをした事があった。キューバにかつて奴隷として連れて来られたアフリカ人達が、スペイン人に気付かれないように密かに信仰を守り抜いたヨルーバの神々が宿るといわれている木だった。ヴィクトルは、その黒人と絶滅したと言われている原住民の混血でやはりヨルーバの神を信じていた。10分くらいだったのだろうか、雨と雷雲が通り過ぎるまでその木の下でヴィクトルは何度となく同じメロディを繰り返し口ずさんでいた。
その時聴いたメロディが、日本に戻ってずいぶん経ったある日、それも東京の満員電車の地下鉄に乗っているときに突然蘇った。雨と雷で物凄い音が鳴り響いていた筈なのに、私の中では静寂の中のぬくもりのような暖かい記憶としてこのメロディが鳴っていた。

7. アボカド
作曲/川上ミネ
パーカッション/ 全員
ピアノ/川上ミネ
コントラバス/Eduardo Gonzalez
トランペット/Dante Vargas
トロンボーンと声/Moris Jimenez

「アボカド!」「大きくて熟れていて美味しくて地球ぐらい大きいくて未亡人も子供もビックリするメチャクチャ美味しいイアボカド!!」
朝6時。音の割れる大音量メガホンでやって来るこのアボカド売りに毎朝起こされる。コロンビアに住んでいるときだった。毎日夜が明ける前に農場を出て、街までリヤカーを引いてやってくるのだろう。畑仕事で日に焼けた黒人の肌はあまりにも黒くて、真っ白い白目と歯の部分しか見えない。
ラテン人にとって音楽は料理をするようなものだ。その人に合った材料を手にすると、瞬く間に音楽を作ってしまう。メロディがなくても、音の鳴るモノさえあれば、リズムと掛け声だけで一つの曲ができてしまうのだ。
それにしても、モーリスのこの声。トロンボーンの出番が少ないからか、いきなり曲の中で勝手に喋りだした。さすがに全員途中で笑いがとまらなくなった。なにかのリズムで火がついて、彼の体内にある鍋が沸騰したらしい。

8. サンタクルス
作曲/川上ミネ
ピアノ/川上ミネ
ギター/Edgardo Mieri
ウドー(アフリカの素焼の徳利みたいな打楽器)/Mauricio D’Leon

2003年1月、ボリビアのサンタクルスと言う街で現地のミュージシャンと共演コンサートを行った時にこの曲が生まれた。ボリビアは日本の国土の3倍の面積があって、把握しきれないほど多種の民族や原住民が暮らしている。ボリビア人一人一人を見ると、それぞれの人の顔にその人の背景―その人の生い立ち、生まれ育った環境、伝統、伝統を育んだ自然環境、歴史などが明確に現れている。その顔は何か強烈な光のようなエネルギーを放っているように感じてならない。共演ミュージシャンの顔を見た時、すでに音楽が彼ら一人一人の背後から聞こえてくるような気がした。そんな彼らと、一緒に同じ曲を初めから合わせて弾くのはなぜか勿体ないような気がして、1曲目に演奏する曲として急きょこの曲を作った。無人の舞台に、一人が登場し思う存分演奏をしてもらい、気が済んだら次の人にバトンタッチをしてリレーをして最後に短いテーマを皆で一緒に弾くという形式である。

9. まるで歌のようにピアノバージョン
原曲/Victor Fonseca
ピアノ編曲/川上ミネ
ピアノ/川上ミネ

足がペダルにも届かないチビのころからピアノを触り始めて、少なくない年月が流れても、未だに私にとってピアノの音は未知の響きである。音という摩訶不思議で限りなく美しい存在の、そのほんの一部の一部をチラッと見ているだけのような気さえする。
一つのピアノの音が響いても、沢山のピアノの音が同時に響いても、それが短い時間でも、長い時間でも、あらゆる全ての響きが私にはそれがそれぞれ独立した色彩として見える。その色彩は、写真でもなく、絵でもない。そして時々昔の記憶と強烈につながって、瞬時にしてその次元にジャンプする。
キューバで暮らした時、強く感じたことがあった。時間が残酷なほど、ゆっくりと、真っ直ぐに流れていくと言えばいいのだろうか。日が昇り、雲が流れ、木々葉々が風に揺れ、鳥が鳴き・・、そして日が沈む。当時は、火も灯りも水もろくに手に入らない生活だった。灯りが灯ったときの明るさ、水が滴るときの水滴の輝き、火が燃えるときの暖かさ、まるでスローモーションで感じているかのように、その一瞬一瞬が自分の体の記憶の中に潜んでいる。
日が落ちて、空の色がワイン色に変わるその時だけに吹く風があった。その風が吹くと、家の横にあった椰子の葉が大きく揺れて私の部屋の壁のある部分を擦る。一日の内でも何故かこの時にしか聞こえない独特の音だった。この曲の初めの部分には、この風を感じずには絶対通り過ぎることのできない音がある。

10. デスカルガ
作曲/Luis Fernando Franco
編曲/Luis Fernando Franco,川上ミネ
ピアノ/川上ミネ
パーカッション/Roberto Cuao
ギター/Edugardo Mieri
ベース/Nestor Gomez
トランペット/Dante Vargas
トロンボーン/Moris Jimenez
フルート/Luis Fernando Franco

「荷物を下ろす」=デスカルガ。やっと仕事が終わったとき、やっと家に戻ってきたとき、やっと酒が飲めるとき。この瞬間が「デスカルガ」だ。ラテン人のコンサートで一番の聴き所はこの瞬間だ。つまり、本番が終わって、アンコールが始まる頃だ。
ラテンの国には秩序がない。時間は守らないし、約束したことはやらないし、いくらでも誤魔化すし、全てが目茶苦茶の一言に尽きる。ところが、守る「時間」も通り過ぎ、「約束」も時効が過ぎ、「誤魔化す」対称そのものがなくなったその瞬間、何かがリセットされるのか正にこの時一つの途轍もなく大きな物が動き始めるのだ。これがラテン音楽の基本構造のような気がしてならない。

 

共演仲間の紹介

Luis Fernando Franco/フルート、インディオの笛一般、打楽器、作曲、編曲
コロンビア人。ボゴタ国立音楽大学フルート科卒業、カラカス国立音楽大学作曲家卒業。コロンビアで映画音楽、舞台音楽を中心に演奏、作曲活動を行っている。またゲリラなどの襲撃により虐殺され絶滅しかけているコロンビアの農村地帯、ジャングル地帯に録音機材を持って訪れ、できる限りの民俗音楽、伝統楽器の音や奏法を身に付け、それを世に伝え残していくという活動を行っている。

Roberto Cuao/パーカッション
カリブ海地域の黒人系コロンビア人。ボンゴ、コンガなどラテンのパーカッショニストとして何米、ヨーロッパなどで活躍している。コロンビアの人気歌手カルロス・ヴィヴェスとも組んでいる。

Diego Gale/パーカッション,br> 原住民と黒人の血を引くコロンビア人。音楽家系に生まれ、子供の時から音楽家として活動してきている。リズム感のよさではコロンビア一と言われているパーカッショニスト。「メトロノームより正確」というあだ名までつけられている。

Mauricio D’Leon/パーカッション
白人系コロンビア人。独自に開発した楽器や、アフリカの打楽器などラテンの打楽器にとどまらず音の可能性を追求しながら独自の奏法を確立したパーカッショニスト。メデジン音楽大学で講師も務めている。

Dante Vargas/トランペット
ペルー人。音域の広さ、音色の幅広さ、高度なテクニックで、鋭い音を極めるラテンジャズのトランペット奏者として、ヨーロッパ、コロンビア、アメリカ合衆国などで演奏活動をしている。

Eduardo Gonzalez/コントラバス
白人系コロンビア人。クラシックとジャズとラテンが引ける南米では貴重なコントラバス奏者。メデジン交響管弦楽団の団員でもある。

Jonny Pasos/サックス
白人系コロンビア人。サルサだけでなく、現代音楽や、クラシック音楽も演奏する。自身でも作曲活動などを行っている。

Moris Jimensz/トロンボーン
キューバ人。確実な音、豊かな想像力、歌って踊るメチャクチャ明るいトロンボーン奏者。彼がいるだけで祭みたいになる。

Edugardo Mieri/ギター
アルゼンチン人。タンゴとブルースが得意なギタリスト。南米を中心に活動をしている。

Nstor Gomez/ベース
白人系コロンビア人。南米中心に活躍中のサルサのバス奏者。

 

録音スタジオ/STUDIO401(コロンビア)、メトロポリタン劇場大ホール(コロンビア)
音響,ミキシング/Luis Fernando Franco
表紙写真/Janet Jarman
カバーデザイン/林千尋(Creative Studio OFFICE)
マスタリング/小太刀剛

 

 
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